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小池 竜司 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 薬害監視学 准教授)
ITを初めとするテクノロジーの進歩は、人間生活の変革をもたらした。子供のころ読んだSF小説や漫画では、科学技術の進歩によって便利で
快適に暮らす人間の姿が描かれていた。確かに、そのころ夢であった科学技術のいくつかは現実のものとなり、日常生活に利用されるに至った。
しかし、それによって我々の生活は、SF小説に描かれていたように便利で快適なものになっているだろうか?現実には、昔よりも多忙になり、時間に追いかけられて生活しているのではないだろうか?たとえば携帯電話は、いつでも誰にでも連絡をとることができ、いながらにして会話が可能になることで、移動の手間を減らすことができるという夢を実現できる技術であった。しかし実際には、いつどこにいても連絡をとることができることは拘束されていることでもある。それどころか、連絡をとれるゆえに結局現場に呼び出される羽目になっている
人は少なくないはずである。 ◇診断テクノロジーの進歩 画像診断などの診断テクノロジーは、この20年で大きく進歩したものの一つであろう。CTやMRIはその代表であるが、これらは特に本邦の設置台数が世界の中で際立って多いことがわかっている。ところが、問題点として、放射線科診断医や画像診断医がその数に追いつかず、撮影しっぱなしになっているという指摘があり、ここに医師不足の問題が見え隠れする。それでも装置さえあれば撮影はできるので、必ずしも医師数には依存しない。ところが血管造影や内視鏡検査は医師自身が術者であり、医師がいなければ施行できない画像診断である。
◇IT化とその進歩 もはや電子カルテは常識となりつつある。それ以前より、診療はIT端末を用いたものに移行していた。検査結果の保存や集計、画像情報の保存、
オーダーリングにはITは便利であるが、患者には時に「コンピューターばかり見て診療している」などと批判される。それはともかくも、ITの普及によって減った業務の一つは電話であろう。検査の予約や結果照会のためにかける電話は、明らかに減少した。しかしPC相手にかける手間がそれに見合うものかどうかは疑問である。かつてはコメディカルスタッフやクラークが独立して行っていた検査予約を、診療時間内に医師が自身で行うシステムとなった施設は少なくないはずである。結果的に一人の患者が、診察室に入り退室するまでにかかる時間が増加している可能性がある。このテクノロジーの進歩はどのような恩恵をもたらしているのか不明確である。
。 ◇医師過剰論に欠けていた視点 約25年前に厚生省保険局長が言及した医師過剰の見込みは、現在修正される方向にあるが、長い間行政と世論が誘導されてきたことは言うまでもない。保険局長の見解において、医療費が増大するという見込み自体は正しいものであった。しかし医師数に関する考察は、医療テクノロジーの進歩を全く視野に入れていなかったものであることは間違いない。当時は、冠動脈インターベンションも緊急内視鏡も臓器移植手術も少数しか行われておらず、非医療者どころか診療現場の医師ですら、25年後の現状を予測していなかった。 ◇医療テクノロジーの目指すものとは 医療は常に不完全なものであり、常に進歩の途上にある。医療進歩の基準は実施する側の利便性や満足度ではなく、救命率の向上が唯一の目標であるが、人間にとって死は不可避である。すなわち、医療テクノロジーは決して止まることなく進歩を続けることとなり、それは労力の軽減を意味するものでは全くない。高度な医療行為は、間違いなくマンパワーもコストもより多く必要とする。そして現時点の高度医療・先進医療も、10年後には標準医療となる宿命にあるのだ。 2008年7月14日
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