アジアネット教育研究所は専門家による小学校英語教育、ヘルスケア・マネジメントの情報を提供します

会社概要 企業理念 アクセス お問い合わせ HOME
ヘルスケア・マネジメント
ヘルスケア・マネジメントTOP
▼リレーコラム
活動報告
質問・投稿コーナー(準備中)
掲載記事(準備中)

グループ会社紹介
株式会社ネットラーニング
株式会社wiwiw



HOME>ヘルスケア・マネージメントTOP>リレーコラム

■リレーコラム
      〜ヘルスケア・マネジメントにおける諸問題を考える

第4回 地域医療のコンフリクトを解消するために
秋山 美紀(慶応義塾大学 総合政策学部講師)

◇非経済的なインセンティブを共有する

 「各地でほころびを見せている地域医療。医師不足問題は国会や地方議会の質問でも取り上げられ、各地で超党派の議員連盟が立ち上がるなど、地域医療の危機を打開するための行動が起き始めています。特に妊婦の救急搬送についてはメディアが大きく報じたこともあり、この春の診療報酬改定では、産科や小児科の救急加算が厚くなりました。

 しかし経済的インセンティブ以外にも取り組むべき大事なことがあるように思います。それは、「地域医療を良くしたい」という強い意志、地域への愛情、やりがいといった、取り組みの発端になる「非経済的な」インセンティブを、地域の住民、医療提供者、行政、そして地域メディアといった各主体が共有することです。そのためには、コミュニケーションの「場」づくりが鍵になるでしょう。

◇コミュニケーションが成立するためには

 コミュニケーションの主体同士がメッセージを理解するには、共通の「ことば」と「文脈」を共有することが必要です。しかしながら医師と患者の間はもちろん、医師と他の医療関連職の間にすら、専門知識の壁が大きく横たわっているのが現状です。「説明してもどうせ患者はきちんと理解できない」という医師側のあきらめと、「わからないのでお任せします」という患者側の依存体制は、「あちら側」と「こちら側」という溝を大きくしてしまいました。同様に医療制度・政策に関しても、「診療報酬体系は複雑で国民にはわからないから専門家が決める」という国側と、「難しいから知らなくてもいい」という国民側には、提供者と受益者という埋めがたい溝があります。こうした専門性が医療のコミュニケーション、さらには医療政策への住民参加の阻害要因となってきたことは多くの識者によっても論じられてきました。

◇住民が主体というが・・・

 「地域医療の主体は住民であり、医療従事者はこれをサポートするのが役割である」。これは自治医科大学がまとめた「地域医療白書第2号」の一節です。住民は、与えられるものを待っているだけ、不満を言うだけでは主体としての役割を果たしたことにはなりません。国が都道府県に策定を義務付けている新しい「地域医療計画」も、大学等で医療制度に関わる専門分野の研究者などの協力も得ながら、地域の医師会、そして住民の声なども入れて立案し、実現への政策導入を図ることを求めています。しかし、住民を含む地域の関係者の協議による計画づくりは言うほど簡単なことではありません。各地域でどのように関係者の協議を進めていくのか、注意深く見守っていく必要があるでしょう。

◇「場」づくりのヒント

 ヒントになる取り組みもあります。たとえば病院勤務医の大量辞職が報じられた千葉県山武地区では、昨年度、NPO「地域医療を育てる会」が、医療について学び考えるための連続講座を開いてきました。昨年8月から今年3月まで6回にわたって開かれた連続講座には、時に対立してきた市や町を超えて、様々な住民、医療者、行政職員、議員らが参加しました。異なる立場や考えを持つ当事者同士が、共通基盤となる知識を得た上で、グループディスカッションでは同じテーブル、同じ目線で将来のビジョンを話し合いました。さらにこのNPOは、中核病院の若手医師の研修にも、住民サポーターを募って協力しています。疲弊する医師の立ち去りは、過重労働にさらされている勤務医の実態を住民はもとより地元の行政や議会が知らないこと、医療サービスと他の商用サービスとの根本的な違いが理解されていないことも、大きな理由だという認識がこうした取り組みの背景に あります。
 正しい意思決定の前提には正しい情報と知識の収集が不可欠です。まず、現状認識 を地域が共有すること、そして話し合いの場をつくることにより、住民自身も地域医療 のアクターとしての役割を認識していくことができるでしょう。

◇コミュニケーションは地域医療づくりのプロセス

 山武地区の事例は、コミュニケーションこそが、地域のプレーヤーの関係性をつくり上げ、地域医療を形づくっていくプロセスであることを示しています。「今そこにある危機」を打破するためにも、当事者自らがすぐに取り組むことができ、かつ効果を実感しやすいのが「コミュニケーション」かもしれません。地域に住むひとりひとりが、その地域の医療の実情を知り、互いの立場や考えを理解しあい、思いやり、尊重しあう。その上で、地域の明確なビジョンを描いていく。国の制度の行方も見定めながら、自ら地域のあるべき医療の姿を描き、地域ぐるみで改革に取り組む。
 地域ごとの事情はかなり異なります。それぞれに地域特性を考慮しつつ、走りながら軌道修正を繰り返し、時に国に対しても声を上げて働きかけることが、今、地域医療に求められているのではないでしょうか。


2008年5月9日
 
秋山 美紀 (あきやま みき)
秋山 美紀(慶応義塾大学 総合政策学部講師)

慶応義塾大学 総合政策学部講師

著書・その他:
地域医療におけるコミュニケーションと情報技術―医療現場エンパワーメントの視点から (SFC総合政策学シリーズ)(慶應義塾大学出版会、2008/4)
地域医療を守れ―「わかしおネットワーク」からの提案  (岩波書店、2008/1)

 

ページトップへ▲