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■リレーコラム
      〜ヘルスケア・マネジメントにおける諸問題を考える

第3回 医療と社会のコンフリクト
川井 真 (多摩大学統合リスクマネジメント研究所医療リスクマネジメントセンター シニアフェロー、
明治大学法学部非常勤講師同校死生学研究所事務局長)

 このリレーコラムも、第1回目、第2回目と「コンフリクト」がひとつのテーマになっていました。そこで、第3回目は医療者と患者との間にあるコンフリクトについて、少しだけ新しい観点から皆様と考えてみたいと思います。

 昨今、患者とのコミュニケーションが重視され、医学教育の延長線上にコミュニケーション・スキル養成のための教育も必要である、という声が高まっています。まさに、コミュニケーションは医療安全ならびに医療リスクマネジメントの最大の関心事にもなっています。ただ、コミュニケーションは自己と他者との相互行為において生じるものですから、「トラブルが起きる のは医療関係者のコミュニケーション能力の不足が原因である」と短絡的に結論付けてしまうのは、少し乱暴かもしれません。それはなぜなのか。少し広角的な視点から考えていきましょう。

 たとえば、コミュニケーションという言葉が独り歩きをしていますが、そもそもコミュニケーションとは何でしょう。英語の“communication”という単語の語源をたどっていくと“community”や“commune”まで遡っていきます。そこには“心を通わす”であるとか“親しく語り合う”といった意味のほかに、“共有”や“類似”や“一致”という意味も含まれてきます。もし、その先に“communication”が存在すると仮定すれば、コミュニケーションはお互いに交響することであって、互いに親しみを感じあい、互いを思いやる心を持ち、あるいは互いの価値認識を合わせる努力をしたりすることが大切に思えてきます。そこから真のコミュニケーションが生まれてくると考えるべきなのでしょう。

 加えて、コミュニティやコミューンは主に“地域共同体”や“生活共同体”という意味-なかでもコミューンはヨーロッパ諸国の最小行政区という意味-で用いられることが一般的ですが、これらの背景にあるのは“地域あるいは組織への帰属意識”や“人と人あるいは人と社会との関係性”です。自己が他者と同じ存在であることを示す“社会的アイデンティティ”が互いに交響することにより、社会はその存在を維持していけると考えてもいいでしょう。社会的アイデンティティが自己と外部社会との相互行為の過程で創造され、再創造されているとすれば、社会もコミュニケーションによって機能していると見ることができます。拡大解釈をすれば、コミュニケーションを考えることは社会を考えることでもある、と言ってもいいのではないでしょうか。

 では、問題となる“社会”について、その概念を簡単に整理しておきましょう。
学問的に現代社会を考察すると2つの対立する構図を見出すことができます。ひとつの軸は、その社会が人格的(あるいは宿命的)か否かというもので、一般にはゲマインシャフトとゲゼルシャフトに分類されます。もうひとつの軸は、その社会が意識的(あるいは意思的)なものか無意識的(あるいは意思以前的)なものかという分類です。この2つを組み合わせることで現代社会に4つの類型を見ることができます。従来の地縁社会は家族共同体を含めて“人格的かつ無意識の領域”に分類され、エンタープライズを中心とする利益共同体は“非人格的かつ無意識の領域”に入ってくるのでしょう。また、町興しNPOのような 地域活性化を目指す団体などは“人格的かつ意識的な領域”にあり、国際的なアソシエーションやNGOの多くは“非人格的かつ意識的な領域”に分類されると思われます。

 このように考えると、私たちが総体として捉える社会というフレームワークの中に、個別独立した社会(組織)が様々な目的や価値観を持って存在していることがわかります。大切なことは、日本の社会はその多くが無意識的な領域に存在しているということです。日本は村落共同体の意識を残す一方で、市場原理主義が優位に立つ企業文化を作り出してきました。それも意思以前的な領域で形成されたものです。この過程は“信頼”と“秩序”を著しく薄れさせる危険性を秘めています。社会が交響できない状況、それは社会全体がコンフリクトのなかにあることを意味しています。

 広義の社会の中で、目的や価値観を異にする無数の組織がお互いを理解するために行うコミュニケーションの実現は、グローバル化、情報化、高度専門化する現代社会においてきわめて厄介なテーマになっています。まさに、この問題は医療者と患者に限ったことではなく、現代の日本社会全体が抱える大きなテーマでもあるのです。なかでも医療は個人的でナーバスな領域に踏み込む問題ですから、より鮮明に映し出されてくるのでしょう。ですから、医療者は一般に比してコミュニケーション能力が劣っている、などと悲観的に考えるのではなく、医療機関を取り巻く社会的背景をよく理解したうえで、医療現場に必要なコミュニケーションとは何か、あるいは医療者に必要なコミュニケーション・スキルとは何か、を考えていくことが、問題の本質を掴み、その対処法を見出すために必要となるのではないでしょうか。


2008年4月10日
 
川井 真 (かわい まこと)
川井 真(多摩大学統合リスクマネジメント研究所医療リスク マネジメントセンターシニアフェロー、明治大学法学部非常勤講師 同校 死生学研究所事務局長)

多摩大学統合リスクマネジメント研究所医療リスク マネジメントセンターシニアフェロー。明治大学法学部非常勤講師 同校 死生学研究所事務局長。

著書・その他:
医師が知っておきたいクリニカルコーディング―診療報酬請求の改善に役立つICD・DPCコーディングの要点 (エルゼビアジャパン、2006/05)

 

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