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■リレーコラム テーマ 2. こうすればもっと良くなる!授業実践
住 政二郎 (姫路獨協大学講師(2011年4月より流通科学大学准教授))
みなさん、こんにちは。姫路獨協大学講師(2011年4月より流通科学大学准教授)の住(すみ)です。私の専門は、英語教育学とメディア教育学で、外国語教育にパソコンやインターネットに代表されるICT (Information Communication Technology) をどのように活用することができるのか、ということをテーマに研究をしています。
パソコンは苦手、と思われる先生方もいらっしゃるかもしれませんが、このメールマガジンでは、そんな苦手意識をゆっくりとほぐしながら、これまでとはちょっと違った角度からパソコンやインターネットをながめ、授業に役立つ「道具」として活用していく方法についてお伝えしていきたいと思います。
読者のみなさんのなかには、パソコンやインターネットを使った授業をやりたい、でも、実際に学校にあるパソコンやインターネットをどう使っていいのかは分からない、と思われている方が意外にも多いのではないでしょうか?
または、パソコンやインターネットを授業に使ってはいるけれど、ネイティブ・スピーカーが学校にやってこない日に、CD-ROM教材を子どもたちにやらせているだけであったり、英語のテレビ番組やDVDを子どもたちに見せるだけであったり、ということはありませんか?
残念ながら、「パソコンやインターネットを活用している」という授業をみせていただくと、そんな場面に出会うことが多くあります。
こうした授業には、
- あらかじめ完成された教材や番組がある、
- 単純な内容の繰り返しで、
- 教材が教師や授業内容のかわりとして利用されている、
- 子どもの主体的な発言が乏しく、
- 子ども同士のインタラクションがほとんどない、 といった共通点があげられます。
それでは、なぜ、パソコンやインターネットを活用した授業は、静かに子どもたちをパソコンの前に座らせ、もくもくと何かの作業をさせる、といったものになりがちなのでしょうか?
こうした授業スタイルは、理論的には、CAI (Computer Assisted Instruction)として分類することができます。これは、心理学者のスキナーを中心に提唱された、行動主義学習理論を背景に発展したもので、人間の行動を刺激と反応に大別し、さまざまなに条件を組み合わせながら強化していくことを基本原理としています。
この考え方からすると、パソコンやインターネットは、音や映像を使って、子どもたちを飽きさせずにドリル練習に取り組ませる、とても便利な道具といえるでしょう。
しかし、こうした流れとは別に、「子どもの学習過程」を見直すことによって、教育におけるコンピュータ利用を考えようとする動きもあります。
たとえば、マサチューセッツ工科大学のパパートは、1960年代後半に子どもでも利用可能なLogoと呼ばれるコンピュータ言語を開発し、教師や学習内容の代用品として完成された「教材」を子どもに与えるのではなく、子どもたちの自然な思考を支援する道具としてのコンピュータ利用の道筋を切り開きました(Papert, 1980)。
その後、CAI型の教育への反省と批判から、認知心理学が生まれ、より子どもたちが置かれた環境、他者、および道具との相互作用をとおした学習過程が注目されるようになっていきました。現在、こうした動向は、学習科学(Learning Science)として体系化されつつあり、さまざまな分野での基礎研究と応用研究が進んでいます。
このメールマガジンでも、「教える道具」から「授業を創る道具」*としてICTを位置づけ、その方法についてご紹介していきたいと思います。
*「教える道具」から「授業を創る道具」という着想は、美馬(1991)の「教える道具」から「思考の道具」ということばから得ました。
【参考文献】
・美馬のゆり(1991).「思考の道具−教育」のミッシング・リンク
『現代思想』19(6)、130-140.
・美馬のゆり、山内祐平(2005).
『「未来の学び」をデザインする』東京:東京大学出版会
・三宅なおみ、白水始(2003).
『学習科学とテクノロジ』東京:放送大学教育振興会
・Papert, S. (1980). Mindstorms: Children, computers and powerful ideas.
New York: Harvester Wheatsheaf.
2007年12月19日