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■リレーコラム テーマ 1. 教師の資質とは
芳野郁朗先生(博士(人間科学))
◆ ことばを学ぶこと ◆
ことばを学ぶということは、文化を学ぶことです。文化を学ぶということは、それぞれの土地で人々が生き抜いてきた生き様に触れるということです。それぞれの土地の人々の生き様に触れるということは、それぞれの土地に生きる人々が共有し、そして受け継いできた感性を受け止めることです。
◆ ことばとは何か ◆
ことばを考えるとき、押さえておかなければならない側面があります。一つは記号としての側面です。私たちは身の周りの様々な物事を、すべてありのままに見ているわけではありません。目に映ったものを意識するとき、私たちはそれを解釈し、自分が理解しやすいシンボルに置き換えます。その記号は、その土地の社会に共有された時にことばになります。
二つ目に文としての側面があります。これは文法と言っていいでしょう。ことばには必ず文法があります。日本語と英語でも文法が異なっています。日本語での会話を詳しく見てみると、日常会話の中で主語をほとんど使わないことが分かります。日本人が共通して持っている「暗黙の了解」という前提が、言わなくても分かることばであれば省略するという文法を生み出しています。
三つ目は会話という側面です。外国語を直訳したときに、いくら単語や文法が正しくても不自然な会話になることがあります。映画カサブランカの名ゼリフ「君の瞳に乾杯」。元の英語では”Here's looking at you, kid” つまり、「君を見つめることに乾杯、お嬢さん」となります。翻訳の妙と言うべきでしょうが、「君の瞳に乾杯」とすると、日本語の会話の中では(少しキザですが)素敵な言葉になります。どのような文脈で、どのように表現すると自然に聞こえるのかという点は、その土地に暮らす人々が共通して持っている感性によって変わります。
◆ 子どもたちがことばを身につける時 ◆
子どもたちがことばを身につける時期、同時に様々なものを吸収していきます。
この時期の子どもたちには、身の周りの物事をどんどん吸収する特殊な能力があります。この能力を使って吸収していくのは、道徳や価値、社会性、習慣など非常に多様なものです。これらのものは、理解して覚えるというものではありません。
理由はともかく、そういうものだとして吸収していきます。そのままの状態で吸収していくことで、これらのものは子どもたちの心の奥深くに根付き、子どもたち自身の道徳観、価値観に育っていきます。同じことがことばにも起こります。子どもたちはことばを身につける時に、単語や文法など考えていません。ことばが使われているときの周りの状況を理解しながら、耳から入ってきた表現をそのまま取り込んでいきます。文法を理解しているのではなく、ことばを含めた文化や感性をすべて吸収していくのです。こうすることで、子どもたちは状況に応じたことばを使えるようになっていきます。
◆ 外国語を学ぶ時 ◆
私たちが学校で外国語(第二言語)を学ぶ時には、子どもが持っている「すべてを吸収する力」は弱まっています。成長した後にまでこうした力が衰えなかったら、人の心は常に激変し続けることになります。「あの人らしいな」という感覚など生まれて来ないほどに。
そのため外国語を学ぼうとした時に、子どもと同じようにその文化を受け入れることはできません。いくら理解しようと努力をしても、完全に理解することはできません。異文化だけではありません。個人でも同じでしょう。
どんなに親しい間柄であっても、その人のことを完全に理解することなどできません。しかしながら、このことがコミュニケーションを楽しいものにしているのです。分からないからこそ、コミュニケーションを深め、少しずつお互いを知ることができるのです。異文化コミュニケーションであればなおさらです。違いがあることを受け入れ、この違いをお互いに尊重する態度を育てていくことが、異文化コミュニケーション、ひいては外国語学習の重要なポイントになります。
2009年7月29日