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■リレーコラム 特別号 ゼロから始めるStorytelling
Vol.1 |
Storytellingは子ども専用とは限らない |
梨 庸雄 (弘前大学名誉教授、小学校英語教育学会顧問)
日本ではStorytellingは、小学校における英語活動に関連して話題になっていますが、大人が楽しめるStorytellingもあります。西洋でも東洋でも昔は文字を読める人々が限られていましたから、物語はもっぱら音声で語られていたのです。
『徒然草』に「琵琶法師の物語を聞かむとて、琵琶を召しよせたるに」とあったように、鎌倉時代あたりから目の見えない僧侶が琵琶の音に合わせて平家物語を語り歩いたことが記録に残っております。また、『グリム物語』はドイツ各地に語り伝えられていた民話をグリム兄弟が収集して本にしたものですが、内容的に見ても子ども専用に創られたものではありません。大人も十分楽しめる内容になっています。
教育が普及し文字を読める人々が増えるにつれて、日本では瓦版や木版が現れ、西洋ではグーテンベルグが印刷機を発明しました。皮肉にも、印刷術の普及と並行するように口承文学がすたれていきましたが、西洋では近年になってStorytellingが復活しました。今や英米各地にStorytellingの研究会があり、発表会が盛んに行われています。日本からは英米のすぐれたStorytellersの語りを鑑賞するツアーも組まれているほどです。
それでは何故Storytellingが近年になって復活したのでしょうか?それは近年になって、地域住民の間の絆が希薄になり、
都会でも山村でも恐ろしい事件が頻発する社会になってしまい、どんな小さなコミュニティーにおいても、自分の経験を語り、
他の人の話を共有することによって住民間の絆を再構築したいという、コミュニケーションへの根源的な渇望が人々の心に潜在するからだと思います。
ここまでお読みになられた方はもうおわかりでしょう。Storytellingは「読み聞かせ」とは異なるものです。
読み聞かせは親や先生が子どもに絵本などを読んで聞かせるものですが、Storytellingは、語る話を空で言えるくらいに十分に理解し、その人なりの思いが聴衆に伝わるように「語る」ことです。
「空で言える」なんて“空恐ろしい”とお思いの方もおられるかもしれません。しかし、そこがポイントです。緊張して原典通りの語句が出てこない場合には自分の知っている表現で語ればよいのです。その人なりの解釈と語りでよいのです。それがコミュニケーションへの第一歩なのです。発音のきれいなプロの声優やアナウンサーの語りが常に聴衆を感動させるとは
かぎりません。大事なことは、語る英語が訥々<とつとつ>としたものであっても、聴衆の心にじーんと沁みてくる語りがあるという事実です。
<<これは連載の第1回目で、筆者なりの執筆予定はありますが、読者からのご質問やご要望を取り入れて、より皆さんのニーズに応えられるように努力したいと思いますので、よろしくお願い致します。>>
2008年1月9日